わたなべまこのこと

断面図をこよなく愛するわたなべまこのブログ

【苺の断面図】あまおう(福岡S6号)

【苺の断面図】あまおう(福岡S6号)

年明け以降、私が住んでいる岐阜県でも苺が比較的、手に取りやすい価格になってきました。品種にもよりますが、年内はクリスマスシーズンという事もあり苺の価格はかなり高め。それを過ぎると、だんだん落ち着いて来るかな…というイメージです。

岐阜県内で収穫された苺はもちろん、近隣の愛知県で収穫された苺がスーパーには多く並んでいますが、福岡県産のあまおうは岐阜県でも入手がしやすい苺です。

【苺の断面図】あまおう(福岡S6号)

苺のトップブランドと言えば、あまおう。
他の品種の苺と比べて、同じ1パックでも「あれ…?ちょっとだけ、あまおうのほうが高いのかな…?」と思った経験がどなたにでもあるのではないでしょうか。
最近ではスイーツビュッフェや苺フェアの主役になるのも当たり前といった存在のあまおうですが、実は誕生するまでにかなりの歳月がかけられていました。

www.sankei.com


こちらは以前、私が市場で働いていた頃に取材協力させて頂いた、産経新聞によるあまおうが誕生するまでの詳細を知る事ができる記事です。
私は図柄の作成と苺の断面図の写真提供という形で協力させて頂いたのですが、記事の内容がとてもわかりやすく、面白かったのでシェアしたいと思います。

【苺の断面図】あまおう(福岡S6号)

あまおうは「あかい・まるい・おおきい・うまい」の頭文字

気付いたらすでにとちおとめと同じくらい知名度があった、あまおう。
高いけれど美味しいブランド苺、くらいの知識しか持っていなかったのですが、産経新聞の取材をきっかけに改めてあまおうについてきちんと調べる事にしてみたのでした。

あまおうは品種名ではなく、登録商標となります。
正式な品種名は福岡S6号。ですが、ちょっと堅苦しいこの名前のままではなかなか売れないだろう、という事で、消費者になじみやすい販売用の愛称を一般公募し、選ばれたのがこのあまおうという名前(ブランド名でもある)なのです。

ちなみに、あまおうだけではなく他産地の苺や、苺以外の青果物でも同様に品種名と流通している登録商標が異なるケースは多々あります。これは、品種登録した品種名は商標登録できないという事情があるからなんですね。品種登録した品種名とは別の名称を新品種のブランド名として商標登録する必要があります。

【苺の断面図】あまおう(福岡S6号)

あまおうの断面図(縦)

あまおうの名の通り、果皮だけではなく果肉までしっかりと真っ赤な苺の断面図を確認することができます。カットしても真っ赤で見栄えがよい為、あまおうはパフェやケーキの飾り付けにも用いられます。

それは見栄えの良さだけではなく、程よい硬さを持っていることで、カットしても崩れにくい、また作業がしやすいという理由もあるみたいです。程よい硬さを持つ事で輸送にも耐えられる為、福岡県でしか栽培されていないにも関わらず全国どこにでも送る事が可能となります。私が住んでいる岐阜県でも手に取りやすいのは、これが理由なんですね。

あまおうが誕生する以前、福岡県ではとよのかという品種の苺が主力でした。
とよのかも美味しい苺ですが、着色に難ありだった為、とよのかよりも真っ赤で大きく見栄えがよい苺を新たに品種開発する必要があったのです。
新品種を開発するという事は、より美味しく、栽培しやすく、ぶっちゃけ「売れる」品種を開発するという事です。あまおうの味、硬さ、色はこの要素を兼ね備えていたからこそ、苺のトップブランドとして認知されたのではないでしょうか。

【苺の断面図】あまおう(福岡S6号)

あまおうの断面図(横)

品種開発の着手から5年、70種類もの組み合わせから7000株を作り出し、1日300個の試食の末に誕生した、あまおう。
これだけ聞くと「人気が出て当然」と思ってしまいがちですが、最近は苺の新品種もどんどん登場しているので、良い品種だから売れる、という訳ではないのです。

あまおうは売れる為に、福岡県を飛び出し東京にも売り込みをかけました。
首都圏の卸売り市場関係者にあまおうの味を確かめて貰い、トレンドの発信地である東京を中心にあまおうを広めていったのです。
そういえば市場にいた頃、仲卸業者さんの事務所の片隅にデビュー当時のあまおうを宣伝する古びたポスターが貼られていたのを見かけた事がありました。

デビューしてからもうすぐ20年を迎えるあまおうですが、現在もいちごの王様という座をキープしつづけています。とある仲卸業者さんが「なんだかんだ、あまおうがやっぱり美味しいし売れる。あと10年くらいはあまおうを越える品種はなかなか出て来ないんじゃないかなあ」と仰っていたのを今でも覚えています。

少し高くても売れてしまうあまおうのブランド力はとても強く、日本国内だけではなく海外でも「日本の美味しい苺」としてフルーツ専門店にも並んでいるそうです。
あまおうは漢字をあてると「甘王」になるのですが、まさに王様になるために生まれてきた苺と言えるでしょう。